子どもの薬の課題と小児治験

子どもに使用される薬が抱える課題

適応外使用

薬には、それぞれ「どの病気にどのように使うか」(効能・効果、用法・用量)が決められており、薬の“取扱説明書(トリセツ)”である「添付文書」に記載されています。しかし、添付文書に子ども向けの使い方が書かれていない薬が多く、結果的に子どもの治療に使用されている薬の60%以上が、添付文書に書かれた使い方とは異なる「適応外使用」といわれています。

実際に、添付文書の記載内容を調べた近年の研究によると、子どもに対する使い方(用法・用量)が記載されている割合は、全体のわずか約14%しかありませんでした2)。さらに、子どもによく使われる薬でも、その割合は約49%にとどまることが分かっています。

図1 医薬品の添付文書における小児の用法・用量が記載されている割合

こうした状況では、大人での使い方を参考にしたり、これまでの子どもでの使用実績をふまえたりして、適応外使用を行わざるを得ないのが実情です。しかし、適応外使用には様々な問題があります。

  • 薬の効き目(有効性)やリスク(安全性)が十分に確認されていないため、期待通りの効果が得られなかったり、副作用が生じる可能性があります。
  • 保険診療の対象とならない場合があり、治療費の負担が増える可能性があります。
  • 副作用が生じた際に、公的な救済制度(医薬品副作用被害救済制度)の対象外となり、支援を受けられない可能性があります。

剤形変更

私たちが普段飲んでいる薬は、体内で適切に溶け、吸収され、効果を発揮するように設計されています。また、苦味やにおいを抑えるために、錠剤の表面にコーティングを施していることもあります。こうした工夫は、あくまで設計された形(剤形)のまま使用することを前提としています。

しかし、小さな子どもは、大人用に設計された錠剤やカプセルをそのまま飲み込むことが難しく、さらに体の大きさや発達段階に応じて薬の量を細かく調節する必要があります。そのため、医療現場では、薬の形を変えて使用することが日常的に行われています。たとえば、錠剤を潰して粉薬にしたり、カプセルの中身を取り出したりすることがあります。こうした加工を「剤形変更」 と呼びます。

しかし、剤形変更には、次のような問題があります。

  • 薬の溶け方が変わる等して、薬の効き目(有効性)やリスク(安全性)が変化する可能性があります。
  • 加工の過程で、有効成分が変化したり、有効成分の量が均一でなくなる可能性があります。
  • 隠されていた味やにおいが現れ、子どもが薬を嫌がることがあります。
  • 加工には多くの手間を要するため、医療従事者の大きな負担となります。

子ども用の薬の開発と小児治験の必要性

なぜ、適応外使用や剤形変更が多いのでしょうか。
その理由として、薬の多くが患者数が多い大人のために開発され、子どものために開発されることが少ないことがあげられます。日本で2010年4月から2015年3月に新たに薬として認められたもの(629品目)のうち、子どもに使用できるものは約30%(190品目)に過ぎませんでした3)(図2)。大人用と子ども用の薬が一緒に開発され、同時に承認されるのが理想的ですが、開開発スケジュールにおいて子ども用は置き去りにされています(図3)。

図2 小児に対する適応取得状況
図2 小児に対する適応取得状況
大人用と小児用の薬が一緒に開発され、同時に承認されるのが理想的ですが、開発スケジュールにおいて小児用は置き去りにされています(図3)。
図3 小児医薬品の開発スケジュール

子ども用の薬が抱える課題を解決するためには、先のような法制化とともに小児治験が欠かせません。小児治験は、子ども用の薬の効き目(有効性)やリスク(安全性)を科学的に確認するために行われます。小児治験を推進することで、適応外使用や剤形変更に頼らず、子どもたちにとってより安全で有用な薬を提供することが可能になります。

小児治験を支えるネットワーク~安全な薬を子どもに届けるために~

小児治験を円滑に進めるためには、治験に協力してくれる子どもとその家族の参加や、治験に携わる医療従事者の確保が必要ですが、1つの医療機関でできることには限界があります。そこで、全国の医療機関が連携し、小児治験に特化したネットワークを作りました。

このネットワークでは、治験に関する情報の共有、業務手順の統一、窓口の一元化を進めることで、より効率的に小児治験を推進することを目指しています。

子ども用の薬の開発には、多くの医療機関や関係者が協力し合うことが不可欠です。小児治験ネットワークは、こうした連携を支え、子どもたちにより良い治療の選択肢を増やしていくことに貢献します。

(参考文献)
  • 1) 藤田彩子, 千葉幹夫, 山路昭, 中川雅生. (2007). 小児科病棟における医薬品適応外使用の実態調査. 日本小児臨床薬理学会雑誌, 20(1) 94-97.
  • 2) 荒牧英治, 若宮翔子, 岩尾友秀, 川上庶子, 中江睦美, 松本妙子, 友廣公子, 栗山猛. (2018). 小児頻用医薬品に関する医薬品添付文書における記載状況の調査. 医療情報学, 38(6), 337–348.
  • 3) 中川雅生, 土田尚, 河田興, 佐藤淳子, 崎山美知代, 平野慎也, 森雅亮, 中村秀文. (2016). 本邦における小児医薬品開発推進のための提言. 日本小児科学会雑誌, 120(10), 1453–1461.
  • 4) 諏訪美月, 三宅真二, 漆原尚己. (2022). 日本・米国・英国における小児用医薬品の開発推進策と承認状況. 臨床薬理, 53(6), 225-234.
  • 5) 厚生労働省. (2024). 令和6年度第7回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会 
    資料1. https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001311521.pdf

小児治験ネットワークとは