小児治験の現状
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子どもに使用される薬の課題
薬には、有効とされる病気(効能・効果)や使用方法・投与量(用法・用量)が定められており、これと異なる使用を「適応外使用」といいます。残念ながら、子どもに使用される薬の多くが、この適応外使用となっています。
適応外使用の問題点
- 有効性、安全性等の評価が不十分な可能性がある(期待される効果が得られなかったり、予測しない副作用が発生したりする可能性がある)。
- 保険診療の対象とならない可能性がある(費用負担が増大する可能性がある)。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象とならない可能性がある(薬が原因で入院治療等が必要となった際に、医療費、年金等を給付する公的な制度の対象とならない可能性がある)。
なぜ、適応外使用が多いのでしょうか。
その理由として、薬の多くが大人のために開発され、子どものために開発されることが少ないことがあげられます。2010年4月から2015年3月に新たに薬として認められたもの(629品目)のうち、子どもに使用できるものは約30%(190品目)に過ぎませんでした(図1)。過去のデータでは、子どもの治療に使用されている薬のうち、約70%以上が適応外使用であるとの報告もあります(図2)
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図1 小児に対する適応取得状況
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図2 小児医薬品(調剤薬)適応外使用の状況
大人用と小児用の薬が一緒に開発され、同時に承認されるのが理想的ですが、開発スケジュールにおいて小児用は置き去りにされています(図3)。
また、小さな子どもは、錠剤やカプセル錠を飲むことができません。
そのため、錠剤を潰したり、カプセルの中身を取り出したりして粉薬や水薬をつくる等の対応が必要になりますが、このように薬の形を変えることを「剤形変更」といいます。剤形変更は、薬の量を調節する際にも必要となり、日常的に実施されています。
剤形変更の問題点
- 有効性、安全性等の評価が不十分な可能性がある(薬の溶け方が変わったりして、体の中での効き方が変化する可能性がある)。
- 品質にバラツキがある可能性がある(全体量が減っていたり、有効成分の量が均一でなかったり、成分が変化したりする可能性がある)。
- 飲みづらくなる可能性がある(隠されていた味・においが現れる可能性がある)。
- 医療従事者の大きな負担となっている(剤形変更に多くの時間が取られている)。
このような状況を踏まえ、すでに開発されている薬については、適応外使用をできるだけなくしていくことが、これから開発される薬については、大人用と子ども用の薬を一緒に開発していくことが求められており、そのためには子どもの治験を積極的に実施していくことが必要なのです。
(参考文献)
1 政策研ニュース No.27 2009年3月, 医薬産業政策研究所
2 大西鐘壽ほか 「小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究」平成11年度
3 薬局 March 2011 Vol.62, No.3「小児医療現場で起こっている危険」
4 中川雅生 「本邦における小児医薬品開発推進のための提言」, 平成25~26年度厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器レギュラトリーサイエンス総合研究事業 平成27年度日本医療研究開発機構研究費 医薬品等既成調和・評価研究事業 研究開発課題名:小児医薬品の早期実用化に資するレギュラトリーサイエンス研究 分担研究開発課題名:実施可能性のある開発方法論の検討、専門学会との意見調整
子どもに特化したネットワーク
より多くの子どもの治験を実施していくためには、「治験に参加する患者さんの確保」、「治験の効率的実施」、「治験に関与する医療従事者の確保」が必要不可欠ですが、1つの医療機関でできることには限界があります。そこで、私たちは、複数の医療機関が連携し、子どもに特化した治験ネットワークを作りました。1つのネットワークとなり、治験情報の共有、業務手順の統一、窓口の一元化等を実施していくことで、これらの問題を解決し、子どもの治験の促進、延いてはよりよい医療の提供を目指していくこととしました。